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福岡地方裁判所 昭和52年(ワ)129号 判決

原告 伊東文雄

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 原正己

同 辻本章

被告 北部建設こと 金子武夫

右訴訟代理人弁護士 松本洋一

被告 竹内産業有限会社

右代表者代表取締役 竹内三勇

被告 竹内三勇

被告 大竹源十

被告 鍋山文夫

右二名訴訟代理人弁護士 野林豊治

同 村山光信

右野林豊治訴訟復代理人弁護士 村井正昭

主文

一  被告金子武夫、同大竹源十、同鍋山文夫および同竹内産業有限会社は各自、原告伊東文雄および同伊東ケイ子に対し各五四一万八〇九〇円、原告伊東博文および同伊東勝子に対し各五八二万〇九三九円並びに右各金員に対する昭和五〇年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告竹内三勇は原告らに対し各三七五万円およびこれに対する昭和五〇年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告金子武夫、同大竹源十、同鍋山文夫および同竹内産業有限会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告竹内三勇との間に生じた分はすべて同被告の負担とし、その余はこれを二分し、その一を原告らの連帯負担、その一を被告金子武夫、同大竹源十、同鍋山文夫および同竹内産業有限会社の連帯負担とする。

五  本判決中第一、第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告竹内三勇は原告らに対し各金三七五万円および被告竹内三勇を除くその余の被告らは各自、原告伊東文雄、同伊東ケイ子に対し各金一一五四万七六三二円、原告伊東博文、同伊東勝子に対し各金一一七二万〇五四三円並びにこれらに対する昭和五〇年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を各支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告竹内三勇を除くその余の被告ら)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五〇年三月三〇日午後四時頃、宗像郡宗像町大字吉留字池ノ浦一一五七番地の一所在土砂採取現場(以下「本件現場」という。)で訴外伊東利昭(事故当時六才、以下「利昭」という。)、同伊東博嗣(同八才、以下「博嗣」という。)の両名が遊んでいたところ、突然、現場の土砂が同訴外人らの頭上に落下して来、同人らは一瞬のうち右土砂の下敷となり、よって、同日時頃、同所において窒息死した。

2  原告らの身分関係

原告伊東文雄(以下「原告文雄」という。)は、利昭の父、原告伊東ケイ子(以下「原告ケイ子」という。)は母であり、原告伊東博文(以下「原告博文」という。)は博嗣の父、原告伊東勝子(以下「原告勝子」という。)は母である。

3  被告らの責任

(一) 民法七一七条

(1) 土地の工作物の瑕疵

本件現場は、被告鍋山文夫(以下「被告鍋山」という。)所有の丘陵地を、被告竹内産業有限会社(以下「被告竹内産業(有)」という。)の代表者である被告竹内三勇(以下「被告竹内」という。)およびその従業員被告北部建設こと被告金子武夫(以下「被告金子」という。)およびその従業員外の者が、昭和五〇年三月二〇日頃から事故当日まで、ユンボ、ブルドーザ等を使用して約二〇〇〇m3を掘採、搬出することによって人為的に右丘陵地の斜面壁を急勾配の危険な状態にして、同斜面壁を含む全体を危険な存在に作出したので、本件現場の土砂が崩壊して本件事故が発生したものであるから、本件現場は土地の工作物につき設置保存上の瑕疵があったというべきである。

(2) 被告らの占有について

イ 被告竹内産業(有)

被告竹内産業(有)は、自己の利益を図る目的で(被告大竹源十(以下「被告大竹」という。)から本件現場にある真砂土を二〇〇〇m3買いうけてこれを北九州市八幡西区香月の香月小学校校庭に搬出していた。)、被告鍋山、被告大竹の許諾を得て、昭和五〇年三月二〇日ころから事故当日まで自ら又は自社の従業員や下請の被告金子および従業員ほかの者を右現場に配し、ブルドーザ、ユンボ、大型トラック等を使用して、連日のように朝から夕方まで真砂土の掘採、搬出に携わり、作業期間中夜は、同現場にブルドーザ、ユンボ等の機械類を残置し、本件現場を直接又は間接に占有していたものである。

ロ 被告金子

被告金子は、被告竹内産業(有)から右現場の土砂を掘採、搬出することを下請し、自ら又は同社の従業員外の者と一緒に作業に加わったものであるが、作業に際しては被告竹内産業(有)の代表者である被告竹内とも打合せをしたが、主に自己の裁量で、真砂土の掘採場所、その方法等について判断し、現場での指図等も自らしていた者であり、自己の利益を図る目的で被告竹内産業(有)と共同して、本件現場を事実上支配、もって直接又は間接に本件現場を占有していたものである。

ハ 被告大竹

被告大竹は、かねて小遣い銭かせぎの目的で本件現場付近の山や丘陵地を土砂採取業者にあっせんしていた者であるが、本件の場合も、被告大竹において被告鍋山から本件現場の上土部分の土砂を採取する権利(本件現場のどこから又どれだけの量を、あるいはどのような業者をいれて土砂を採取するかは、被告大竹の裁量の下にあった。)を取得し、これに基づき、被告竹内産業(有)らに対し一定の対価の支払を受けることと引換えに同被告らにおいて本件現場の土砂を二〇〇〇m3採取することを許諾したものである。

被告大竹は、右のような立場から、被告竹内産業(有)らの掘採場所・量・方法等につき注意を払い、前記作業期間中毎日のように、日に一回は本件現場に足を運び、その掘採を監視し、又時にはこれにつき具体的な注文をつけることもあり、作業員からは本件現場の地主のように思われていたが、昭和五〇年三月二三日ころ本件現場に隣接して山林を所有する訴外滝口雪夫の子供彪より本件現場の土砂採掘方法の危険性を指摘された被告鍋山が右彪を同道して被告大竹のところに注意に赴いた際、被告大竹も被告竹内産業(有)らの掘採方法につき危険を感じていたので、早速被告鍋山とともに、本件現場に赴き、作業員らに対し、危険な採掘の仕方をやめるように注意したり、本件現場近くに居住する訴外安藤三雄らからの中止方の申し入れをうけて被告大竹は事故当日本件現場に通ずる道に車の進入を防ぐため板切れを並べたり、事故後本件現場への立入を防ぐ趣旨で鉄線を張ったりした。以上のことからすれば、被告大竹は、本件現場につき土砂を採掘、搬出することによって自己の利益を図るという目的のもとに、採取業者と共同して支配を及ぼし、もって本件現場を直接又は間接に占有していたものである。

ニ 被告鍋山

被告鍋山は本件現場となっている丘陵地の所有者である。昭和四九年夏頃から被告大竹を介して二、三の採取業者が入ることになって以来本件現場付近は少しずつ削り取られていったが、同年夏頃被告鍋山は被告大竹から本件現場の近くにある同被告の田の埋立用の土砂として本件現場の土砂採取を要望されて、被告鍋山も本件現場付近が宅地化されて好都合なことから右要望に応じることとし、被告大竹に対し無償でかつ採取量も採取区域も格別限定せずに本件現場付近の土砂を採取することを許諾していたもので、被告鍋山は本件事故前から本件現場で土砂が採取されていたことは十分知っており、本件の場合事前に被告大竹から相談をうけていたわけではないが、前記のとおり昭和五〇年三月二三日ころには、隣地所有者側の訴外滝口彪から本件現場の土砂採取方法の危険性を指摘されたので、被告大竹とともに本件現場において、作業員に対し掘採方法につき注意をし、下方をえぐり取るような取り方はしないように求めた。従って、被告鍋山は現場の所有者として、本件採取については、直接又は被告大竹を介して間接に支配を及ぼし、もって本件現場を直接又は間接に占有していたものである。

(二) 民法七〇九条、七一五条

(1) 被告金子(七〇九条、七一五条)

本件現場は斜面の勾配が急で、そのため斜面の下方部分の掘採をすれば上方部分の土砂が崩落する危険性のあることは十分に予見され、このような場合、作業者としては、現場の状況を事前に十分調査したうえ、崩落を発生させないような安全な工法を用いて土砂の掘採をなすべき注意義務があるというべきであるのに、被告金子の従業員らは、これを怠り、漫然ユンボを使用して斜面の下方部分を「くの字」状にえぐり取る、所謂すかし掘り工法を用いて掘採した結果、右過失により、斜面は、安定を失い、上方部分の土砂が崩壊落下したものである。

さらに、被告金子は、前記のとおり、本件現場が崩落の危険性ある箇所であり、また同所付近の空地でふだんから近所の子供たちが遊んでおり、本件現場に立入って土いじり、泥投げ等の遊びをしていたことも十分に予知していたはずであるから、本件現場付近に立入禁止の立札を立てあるいは鉄状網を張り、または防護柵を設置するなど子供たちを本件現場に立入らせないための適当な保安上の措置を講じ、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったにも拘らず、これを怠った。

(2) 被告竹内産業(有)(民法七一五条)

被告竹内産業(有)は土木、建設業者であるが、昭和五〇年三月中旬頃被告大竹から本件現場付近の土砂二〇〇〇m3を一m3当り二〇円で買受け、その頃右土砂の掘採、搬出を被告金子に請負わせ、同被告の土砂掘採作業を直接又は間接に指図、監督してきた者であるところ、被告金子には前記のとおり過失があった。

(3) 被告大竹(民法七〇九条)

被告大竹は、前記のとおり、被告鍋山から土砂採取の許諾を受けて自己の裁量で土砂の売渡しをなしてきたものであるから、業者の掘採に際しては、これが安全な工法で掘採、搬出されることを不断に監視し、崩落の危険性を予知したときは、直ちに業者に対し工法の変更、崩落防止設備(例えば防護柵など)の設置、作業の中止等の申し入れ等をするとともに、自ら現場付近に立入禁止の立札を立て、あるいは鉄条網を張り又は防護柵を設置する等の子供たちを現場に立入らせないための適当な保安上の措置を講じ、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったにも拘らず被告大竹は、これを怠った。

(4) 被告鍋山(民法七〇九条)

被告鍋山は現場の所有者であるところ、前記したように、本件現場は勾配の急な斜面で崩落の危険性を内包している箇所であるから、土地所有者としては、崩落による事故の発生を未然に防止するため、不断からのり面の整備等土地の保安管理に努めるとともに、とりわけ土砂の掘採作業がなされている場合は右崩落の危険性が増幅されるので、業者の掘採の仕方、方法を常に監視し又、子供らの現場立入を防ぐために立入禁止の立札、鉄条網、防護柵の設置等の保安措置を講ずべき注意義務があるにも拘らず、被告鍋山は、右注意義務を怠った。

(三) 被告竹内(民法七〇九条、有限会社法三〇条の三)

被告竹内は、被告竹内産業(有)の代表取締役であるが、前記のとおり本件事故は被告竹内産業(有)から下請した被告金子の作業中におきたものである。そしてその原因は、被告竹内および被告金子が本件現場の危険な状況を知悉しながら、それをとり除くべき注意(安全な工法および子供らの進入防止)を怠った過失にあるところ、被告竹内は被告金子の土砂掘採作業を直接又は間接に指図、監督してきたものである。

4  損害

(利昭関係)  計二三〇九万五二六四円

(一) 病院代  小計 四万五二六〇円

原告文雄、同ケイ子の両名は、利昭の死亡に伴い、宗像久能病院に対し死体処置料、死体検案書作成料として右金員を支払った。

(二) 葬祭関係費用 小計 九七万三七二二円

右原告両名は、利昭の死亡のため左記費目の出費を余儀なくされた。

イ 葬祭費   一六万三七二二円

ロ 仏壇購入費     六六万円

ハ 納骨堂加入費並びに永代供養費 一五万円

(三) 逸失利益 一三八二万六二八二円

利昭は、死亡当時満六才の健康な男子であったから、事故がなければ、健康に成長して高等学校を終え、満一八才から満六七才までは少なくともわが国男子労働者の平均賃金に相当する収入を得るとみられるので、同人の右期間中の平均生活費を収入の五〇パーセント、一八才に達するまでの養育費を一ヶ月につき一万円の割合として、賃金センサス昭和四八年第一巻第一表男子労働者の給与額をもとにホフマン式算定法により右期間中得べかりし利益の現価を算出すると、一三八二万六二八二円となる(ホフマン係数一八、三八七)。

(四) 慰藉料    小計 六〇〇万円

利昭は、原告文雄、同ケイ子の次男として出生し、健康に成長して、この四月から近くの小学校に入学するばかりになっていた。

入学を目前にして、子の非業の死に遭った右原告らの悲しみは深く、右精神的苦痛を慰藉する金額としては、各金三〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用     二二五万円

以上により原告文雄、同ケイ子は、被告らに対し、各金一〇四二万二六三二円を請求しうるものであるが、右原告らは、被告らが任意に損害賠償義務の履行をしなかったので、本訴を提起することを余儀なくされ、そのため、右原告らは昭和五〇年四月一七日原告代理人らに本訴の提起を委任し、その際右原告らは着手金および交通費等の諸費用として二五万円を支払い、また成功報酬として利益額の一〇パーセント(但し各一〇〇万円を限度とする)を支払う旨約した。

(博嗣関係) 計 二三四四万一〇八六円

(一) 病院代  小計 四万九二六〇円

原告博文、同勝子の両名は、博嗣の死亡に伴い、宗像久能病院に対し、死体処置料、死体検案書作成料等として右金を支払った。

(二) 葬祭関係費用 小計 五三万五三九〇円

右原告両名は、博嗣の死亡により、左記費目の出費を余儀なくされた。

イ 葬祭費   一三万〇三九〇円

ロ 仏壇購入費 二五万五〇〇〇円

ハ 納骨堂加入費並びに永代供養料 一五万円

(三) 逸失利益 一四六〇万六四三六円

博嗣は、死亡当時満八才の健康な男子であったから、事故がなければ、健康に成長して高等学校を終え、満一八才から満六七才までは少なくともわが国男子労働者の平均賃金に相当する収入を得るとみられるので、同人の右期間中の平均生活費を収入の五〇パーセント、一八才に達するまでの養育費を一ヶ月につき一万円の割合として、賃金センサス昭和四八年第一巻第一表男子労働者の給与額をもとにホフマン式算定法により右期間中得べかりし利益の現価を算出すると、一四六〇万六四三六円となる(ホフマン係数一九、一六〇)。

(四) 慰藉料    小計 六〇〇万円

博嗣は、原告博文、同勝子の長男として出生し、健康に成長し、この四月には小学校の三年に進級するはずであった。本件事故により一瞬裡に長男を失った右原告らの悲しみは深く、右精神的苦痛を慰藉する金額としては、各金三〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用     二二五万円

以上により、原告博文、同勝子は、被告らに対し各金一〇五九万五五四三円請求しうるものであるが、右原告らは、被告らが任意に損害賠償義務の履行をしなかったので、本訴を提起することを余儀なくされ、そのため右原告らは昭和五〇年四月一七日、原告代理人らに本訴の提起を委任し、その際、右原告らは、着手金および交通費等の諸費用として二五万円を支払い、また成功報酬として利益額の一〇パーセント(但し、各金一〇〇万円を限度とする)を支払う旨約した。

5  結論

以上のとおりであるから、

(一) 原告文雄、同ケイ子は、被告竹内を除くその余の被告ら四名に対しそれぞれ、本件事故による損害賠償請求権に基づき、一一五四万七六三二円およびこれに対する事故の日である昭和五〇年三月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告博文、同勝子は、被告竹内を除くその余の被告ら四名に対しそれぞれ、右請求権に基づき、一一七二万〇五四三円およびこれに対する右同日から支払済みまで前同様の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二) 原告らは被告竹内に対しては前記損害のうちとりあえずその一部である各三七五万円およびこれに対する前同日から支払済みまで前同様の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告金子)

1 請求原因1の事実はおおむね認める。

2 同2は認める。

3(一)(1) 同3(一)(1)のうち、被告金子およびその従業員が、昭和五〇年三月二〇日頃から事故当日まで、ユンボ等を使用し、被告鍋山所有の丘陵地の土砂を掘採、搬出した事実は認め、その余は争う。本件事故発生の場合は、被告金子の従業員らが土砂を採取していた場所ではない。

(2) 同3(一)(2)イは否認する。被告金子が掘採した場所は本件崩落現場ではないばかりか、本件事故は、被告金子が被告大竹の指示により掘採作業を終了した後のものであり、原告主張の本件現場の範囲は別にしても、被告金子の占有の事実はない。

(3) 同3(二)(1)は否認する。

4 同4は争う。

(被告竹内産業(有))

原告ら主張の事実は全部争う。

(被告大竹及び被告鍋山)

1 請求原因1中死亡事故発生の事実は認め、その余は不知。

2 同2は認める。

3(一)(1) 同3(一)(1)中昭和五〇年三月二三日ころから、同月三〇日にかけて、本件土地でユンボ、ブルドーザ等を使った工事がなされていた事実は認めるが、その余は不知。

(2) 同3(一)(2)ハ中被告大竹が、被告鍋山から、本件現場の土砂採取の許諾をその区域、採取量を定めることなく得たこと、被告竹内産業(有)に対し、一〇〇〇m3を一m3当り六〇円で売り渡した事実は認め、その余は争う。また現場に通ずる道に車の進入を防ぐため板切れを並べたが、これは訴外安藤三男らから訴外伊東勇が病床にあると抗議され、人道上緊急措置としてなしたものであり、事故後現場に鉄線を張ったこともあるが、これらは被告大竹が本件現場を支配していたからではない。

(二) 同3(一)(2)ニ中被告鍋山が本件現場の所有者であること、その経緯、被告大竹に土砂採取を許した事実は認め、その余は争う。

(三) 本件現場は被告竹内産業(有)の土砂採取工事により土砂崩落の危険性が作出されたものであり、被告大竹・同鍋山は本件現場の設置により何らの利得も得ておらず、土木工事について全くの素人であるから土砂採取方法や管理につき指示監督すべき立場にないのは勿論その能力もないから、本件現場を事実上支配して工作物の瑕疵修補をなし得べき地位にはなく、本件現場を支配しているものではない。本件現場の被告大竹・同鍋山の占有は被告竹内産業(有)の土砂採取工事により、切断されているというべきである。

(四) 同3(二)(3)および(4)は争う。被告大竹・同鍋山は本件現場につき何らの占有を有しないこと右に述べたとおりであるから、その管理責任すらなく、民法七〇九条の責任を負ういわれはない。

仮に、そうでないとしても、本件現場付近は田園地帯で住宅も極めて少く、隣接部落はかなり離れており、本件現場に隣接する道路も、たまに近隣の農夫が耕作のために往来するのみで一般人の往来は殆どなく、付近の中学生以上の子供は僅か数名で、その子供らにしても遊び場に事欠くようなことはなく、わざわざ本件現場を遊び場にしたり出入りしたりするということは本件事故前には一度もなかった。従って、本件事故当時土砂崩落による事故発生の可能性は考えられないから、被告大竹・同鍋山らに本件事故の発生を予見し、その回避義務を課すことは不当であり、立入禁止等の保安措置を採っていなかったことをもって右被告らの落度というをえない。又、右被告両名は本件現場において工事に従事する被告竹内産業(有)らに対し指示を与えたり管理したりする地位にないことは勿論その必要もなかったことは前述のとおりであり、しかも本件現場は事故発生の可能性さえ認められなかったのであるから、被告大竹・同鍋山において、土砂採取工法につきその安全性を確認し、変更を促すべき注意義務など存しない。

4 同4は不知。

三  過失相殺の抗弁(被告金子・同大竹・同鍋山)

仮に本件事故について右被告らに過失があったとしても、原告ら側にも本件事故について過失がある。

四  被告竹内は適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

第三証拠《省略》

理由

一  事故の発生

請求原因1(事故の発生)は、原告らと被告金子・同大竹・同鍋山間には争いがなく、原告らと被告竹内産業(有)・被告竹内との間では《証拠省略》により認められる。

そこで先ず、原告らの主張にかかわる各被告らの責任原因の存否につき逐一検討を加えていくことにする。

二  責任原因の存否

1  本件事故発生に至る経緯

原告らと被告金子・同大竹・同鍋山間において争いない事実、《証拠省略》を総合すれば以下のとおりであり、これを動かすに足りる確たる証拠はない。

(一)  本件現場の所有者

本件現場は宗像郡宗像町大字吉留字池ノ浦一一五七番一原野五一〇九m2の一画を占めているのであるが、同地は昭和四二、三年頃被告鍋山が前主から購入してその所有権を取得した。

(二)  本件現場付近の最初の土砂採取

昭和四七年頃、本件現場を含む右一一五七番一の土地及び同地に隣接する被告大竹所有の一一五七番二一、訴外山下厳所有の一一五七番一九、訴外滝口雪夫所有の一一五七番二〇の各土地から、中間市の鉱害復旧の田圃埋立用として約半年間にわたって大規模に土砂採取がなされたが、その後は採取跡から土砂が崩壊しないよう後仕末がなされていた。

(三)  被告大竹と被告鍋山のかかわりあい

被告大竹は農業を営んでいたが、昭和四九年八月末頃自己所有の田圃の埋立用の土に使用するため、被告鍋山所有の前記一一五七番一の土地の本件現場付近の土砂を無償で、採取量や採取区域を格別とりきめることなく採取する権利を被告鍋山から取得した。

(四)  被告大竹と被告竹内産業(有)のかかわりあい

被告大竹は昭和四九年九月頃本件現場の近くにある同被告所有の一一九〇番と本件現場付近の土地から被告竹内産業(有)に土を採取させて田圃を埋立てさせた。

(五)  被告大竹から被告竹内産業(有)への土砂の売買

被告竹内産業(有)は、香月中学校の新校開設に間に合うようにそのグラウンドの整備に土砂を運搬する作業を請負ったが、その埋立用土砂として本件現場付近の土砂に目をつけ、被告大竹にその旨申入れたので、同被告はこれを承諾し、一m3当り六〇円の割合で一〇〇m3の土砂を本件現場付近から採取する約が被告竹内産業(有)との間で成立した(関係証拠によると採取量が一〇〇〇m3か二〇〇〇m3か判然としないが、本件ではさほどの意味を持たないので、これ以上触れない。)。

(六)  被告竹内産業(有)から被告金子への下請

被告竹内産業(有)は前記学校グラウンド整備用土砂の運搬作業と、それに必要な本件現場付近からの二〇〇〇m3の土砂採取を被告金子に請負わせることにした。被告金子は従業員一〇人位を使用し、一〇台位のトラックを所有して、個人で北部建設の名称を使って土砂の運搬、残土処理を業とするいわゆる土建業者である。同被告は昭和五〇年三月一五、六日頃被告竹内産業(有)から本件現場付近に案内され、右趣旨の注文を受けてこれを承諾したが、その際被告竹内産業(有)から、土砂採取工事については被告大竹の指示どおりに従って欲しい旨要請された。

(七)  土砂採取工事の実情

被告金子は、昭和五〇年三月二〇日頃から数名の従業員とユンボやブルドーザ等の機械を使って本件現場付近(被告金子は本件事故発生場所(後述する本件崩壊部分)は同被告の土砂採取の作業現場に当らないことを主張するものである。この主張の当否については後述するが、ここでは一応本件現場付近という程度で採取現場を特定しておく。)で土砂の採取と、大型トラック数台を使用して前記学校のグラウンドへの運搬を開始した。被告竹内産業(有)の代表者である被告竹内は右作業開始前に被告金子の従業員に対し本件現場にある崩が切りたった部分は危険なので、上方部分の危険個所の土砂をとってくれるよう述べたことはあるが、作業開始後は時折(四回位)右工事現場に姿を見せただけであった。他方、被告大竹は、採取業者が被告鍋山所有地の一一五七番一の土地以外部分から土砂を採取されることと、被告竹内産業(有)に許可した土砂の採取量の程度を懸念して、被告金子が土砂採取作業を開始してからは殆ど連日その作業現場に来ては採取区域を指示していた。被告金子の従業員らは作業開始前から本件現場付近の土砂崩壊の危険性を認識しており、特に三月二七、二八日頃には被告金子の従業員である訴外金本利男は本件工事現場に姿を見せた被告大竹との間で、工事現場の外側に柵を設け、関係者以外の者の出入りを制限しないと危いという趣旨の会話を交わした程であった。

(八)  本件事故発生前の状況

本件現場の近くに、原告文雄・同博文ときょうだいの関係にある訴外安藤セツ子とその夫訴外安藤三雄夫婦が喘息病みの父と居住していた。同夫婦の居住家屋は本件現場より採取土砂を運搬するトラックの出入場所に面していることから、騒音と埃に悩まされていたので、当初三日間位で工事を終えるといっていた被告金子側の作業が、三月二九日になっても継続していたことに業を煮やした右セツ子が三月三〇日被告大竹に大いに迷惑している旨苦情を述べたところ、同被告は同日正午前に被告金子の従業員にとりあえず土砂採取工事を中止させ、かつ右工事現場への県道からの入口には材木を置いてトラックの出入りをできないようにした。その結果被告金子は当日でやり終える予定だった作業を残したまま、止むをえず一旦中止し、被告金子の従業員らは工事現場をひきあげた。

(九)  本件事故の発生

被告竹内産業(有)が被告大竹から本件現場の土砂採取工事を最初にした昭和四九年九月頃(前記(四)参照)にも、その工事現場付近に子供が遊びに来ていたが、昭和五〇年三月二〇日頃から開始された本件現場付近の土砂採取現場付近にもまた子供が遊びに来ていた。

そして、昭和五〇年三月三〇日午後三時三〇分頃本件現場の一画で崩の斜面に登って訴外利昭と博嗣らが遊んでいたところ、突然土砂が大量に崩壊し(以下「本件崩壊部分」という。)、右両名は土砂もろともに転落して生き埋めになった。一緒に遊んでいた子供(当時小学三年生)が前記安藤三雄夫婦に急を知らせ、かけつけた大人達の懸命の救出作業にも拘らず、発掘された一時間後には利昭・博嗣の両名は窒息死していた。

(一〇)  本件事故発生後の被告大竹の処置

本件事故発生後、被告大竹は直ちに本件事故現場の周囲に鉄条網を設置して人の出入りを禁止し、約一週間後には人を雇って本件現場付近の土砂崩壊事故が再発しないように危険個所と思われる部分にユンボ等の機械を使って手入れをした。

2  工作物の瑕疵の存否

本件現場は昭和四七年、同四九年九月の二度にわたる土砂採取工事を経て、同五〇年三月の本件土砂採取工事の対象になっていたこと(前記1の(二)・(四)・(六)を特に参照のこと)、本件事故はその一画を占め崖状の斜面を形成していた部分で利昭・博嗣らが遊んでいたところ突然土砂が大量に崩壊して生じたものであること(前記1の(九)参照)を考えると、民法七一七条一項にいわゆる「土地の工作物」とは、一般に土地に人工を加えて作出したものを広く含んでいると解せられるから、本件崩壊部分が土地の工作物であり、その設置保存の瑕疵により本件事故が発生したことは明白である。被告大竹・同鍋山は本件現場は土砂採取工事の継続中に暫定的に生来したものであって、工事の進展に伴いたえず増減変動し形状を変えるもので継続性を有せず、かつそれ自体存在の目的を有しないものであるから、そもそも土地の工作物に該当しないと主張するが、工事の進展に伴いたえず増減変動し形状を変えるものであれば、工事関係者以外の者にとってはその危険性は増しこそすれ減るものではなく、形状の継続性とかそれ自体存在の目的を有するとかいうことは必ずしも「土地の工作物」の要素とは解されないのであって右の見解には到底左袒しえない。

3  占有者責任(民法七一七条一項)を負うのは誰か

工作物責任の法理が危険責任および報償責任の考え方を基底にしている以上、第一次的に責任を負うべき占有者とは瑕疵ある工作物を「①事実上管理支配している者」および「②被害者に対する関係で管理支配すべき地位にある者」を指すと解するのが相当である。右①は当然のこととしても、右②をも含むと解するゆえんは以下のとおりである。即ち、被害者に対する関係で管理支配しうべき地位にある者こそとりもなおさず瑕疵ある工作物を修補すべき地位にある者といえること、現代社会においては法律関係が錯綜して複雑であり、所有者即占有者および所有者と占有者の二者間の法律関係にとどまらず、所有者と事実上の占有者との中間に複数の人が介在していることが数多くみられること(本件の場合もそうである。)、占有者として責任を負うべき者を瑕疵ある工作物を事実上管理支配している者だけに負わせるだけでは被害者の救済には不十分であり、被害者に対する関係で管理支配すべき地位にある者をも含ましめることによってはじめて被害者の救済が十全なものに近づくこと、これはまた責任回避だけを計りながら利益だけは獲得しようとする中間の介在者を許さない社会的正義に通ずること、その結果瑕疵ある工作物を社会からできる限り放逐し、安全な社会生活が現実化する契機になること等の理由による。従って、直接占有者が含まれることに異論はないが、間接占有者も民法七一七条一項にいう「占有者」に含まれるか否かという議論は、右にいう「被害者との関係で管理支配すべき地位にある者」といえるかどうかという議論におきかえられるべきである。

以下本件について具体的に判断する。

(一)  被告金子の占有の有無

被告金子の占有者性を考えるに際しては、先ず同被告の「本件崩壊部分は同被告が採取工事をした部分にはあたらない。」との主張を検討しておく必要がある。

確かに証人金本利男と被告金子本人の供述によれば、被告金子側で採取工事した場所は本件崩壊部分に直接かかっていないというのである。しかし、右各供述によっても採取工事場所は本件崩壊部分の左右十数米部分にまで及んでいたこと、本件崩壊部分に直接かからなかったのは最初その右側部分の工事をやっていると本件崩落部分辺りに段々崩が出来て危険になったのでその部分を避け、その左側部分の工事に移ったためであること、それだけでなく、ユンボ・ブルドーザ等の建設機械を使って本件崩壊部分の近辺の土砂二〇〇〇m3を目標に採取し、大型トラックを使って運搬していたことが認められること、《証拠省略》を総合すると、本件崩壊部分を含む本件現場は全体として一帯の土砂採取の対象となっていたことが認められ、従って本件崩壊部分は本件土砂採取現場の一部分にすぎないものであり、格別そこが除外されたと思われる節が証拠上認められない以上、本件崩壊部分が被告金子の土砂採取工事の直接の対象になったかどうかを微視的に検討することは無意味と断じてよい。

被告金子はまた、本件事故は被告金子側で被告大竹の指示により採取作業を終了した後のものであるから、既に被告金子に占有の事実はないとも主張する。確かに本件事故は被告大竹の指示により当日(三月三〇日)の作業を正午頃中止し、その後三時間余にしておきたものであるが(前記1の(八)参照)、本件現場における土砂採取作業を一旦中止したにとどまり、完了したわけではないこと、しかも右中止後本件事故発生まで僅か三時間余にすぎないこと等を考えると、被告金子の本件現場における事実上の支配が終了していたものとは到底解し難い。

以上の点をふまえて、前記1の(六)ないし(九)認定の事実をみるとき、被告金子が本件崩壊部分を含む本件現場を事実上支配し、もって占有していたものであるとの認識は容易に肯定できるのであるから、民法七一七条一項の占有者責任を免れ難い。

(二)  被告竹内産業(有)の占有の有無

同被告が学校のグラウンド整備用の土砂運搬を請負い、その土砂用として被告大竹から本件現場の土砂を一〇〇〇m3も大量に買い、それを採取する権利を取得し、その採取・運搬の仕事を被告金子に下請させた(対象土砂は、被告大竹産業(有)と被告金子間では二〇〇〇m3とされていた。)ことは前記1の(五)・(六)で認定した。このような元請・下請の関係にある場合に、元請も本件現場を管理支配している者、あるいは少くとも管理支配しうべき地位にある者と事実上推認されるのが相当である。元請・下請の内部実態が明らかになってはじめて右管理支配しているか又はしうべきであるか否かが判明するのであるが、被害者側において右内部実態を容易に知りえず、かつその立証も困難なことを考えるとき、右内部実態は元請側が反証として立証し、右推認を覆さなければならないと解するのが衡平にかなうというものである。

本件についてこれをみるに、被告竹内産業(有)は右の点につき何らの反証活動をしていない以上、民法七一七条一項の占有者としての責任を負担すべき者と推定せざるをえない。

(三)  被告大竹の占有の有無

被告大竹は本件現場の土砂を所有者の被告鍋山から採取量や採取区域をきめることなく採取する権利を無償で取得し、それに基づいて被告竹内産業(有)に一〇〇〇m3という大量の土砂を一m3当り六〇円で売り渡し、その採取する権利を付与し、被告竹内産業(有)から下請した被告金子の土砂採取工事を三月二〇日頃から本件事故発生の三〇日まで約一〇日間にわたって殆ど連日行って監視し、採取量に間違いがないか、被告鍋山所有地以外の土砂を採取しないか等に気を配っていたものであることは前記(1の(三)ないし(七)参照)した。これらの事実に、昭和五〇年三月三〇日に訴外安藤セツ子らの苦情にあって被告金子側の土砂採取工事を中止させ、出入口にはトラックの出入りを禁止すべく材木でバリケードを作ったことおよび本件事故発生後は鉄条網を設置したり、危険個所と思われる部分の事故再発防止のための手入れをしたこと(前記1の(八)・(一〇)参照)等を併せ考慮すれば、被告大竹もまた本件崩壊部分を含む本件現場を事実上管理支配していた者又は少くとも管理支配しうべき地位にあった者と解するのが相当であるから、民法七一七条一項の占有者責任を負担しなければならない。

(四)  被告鍋山の占有の有無

被告鍋山が本件現場の所有者であること、同被告が本件土砂採取工事に直接関与していた者でないことは前記1に認定のとおりである。そして、被告鍋山が被告大竹に対し本件現場付近の土砂を採取する権利を、量も区域も定めず無償で与えたのも、かつて被告大竹がその所有する田を被告鍋山に道を作るのに貸してやったりしたことがあったことによることが被告大竹本人尋問の結果により認められるのであり、又被告大竹が安全な工法実施という観点からみて土砂採取の専門家といえる立場にないことは前記1認定の事実から明らかであり、このことは前記認定の諸事実からして被告鍋山も十分に知っていたと推認されること、その上土砂採取工事は、採取業者の杜撰な工事により、工事中の管理はもとより、工事修了後も不十分な後仕末しかしていないことが往々にしてみられることは今日公知の事実であるところ、本件事故は正に右にいう不十分な工事中の管理に起因していること、その危険性は被告金子の従業員や被告大竹も十分認識していたこと、現実に土砂採取工事をした被告金子は勿論、同被告の注文主たる被告竹内産業(有)もともに安全な工法実施という観点からみて十分信頼に値する業者といいうるに足る証拠がないこと等を勘案すれば、被告鍋山も本件被害者に対する関係で本件崩壊部分を含む本件現場を管理支配すべき地位にあった者と評価せざるをえない。換言すれば、所有者即民法七一七条一項の占有者と速断することは許されないが、逆に事実上の支配者がいさえすれば、それだけで所有者即右の占有者になりえないとも速断できないのであって、右のようにいえるかどうかは、所有者と事実上の占有者(本件では被告金子・同竹内産業(有)・同大竹)との内部実態および瑕疵ある工作物の危険性の度合い等を参酌しながら、被害者との関係で占有者としての責任を負担させるべきかどうかという価値判断にほかならないところ、かかる意味において被告鍋山は民法七一七条一項にいう本件現場の占有者と目されるべき地位にあるのである。

(五)  一応のまとめ

以上述べてきたところをまとめると、被告竹内を除く被告らはすべて民法七一七条一項にいう占有者と結論づけられるのである。従って被告竹内を除く被告らについてはその余の責任原因について論ずるまでもなく、後記損害を賠償すべき責任があり、その各責任は不真正連帯債務の関係にあるというべきである。

4  被告竹内の責任の有無

被告竹内が被告竹内産業(有)の代表取締役であることは被告竹内において明らかに争わないので自白したものとみなされるところ、本件事故が被告竹内産業(有)から下請した被告金子の土砂採取作業の過程で発生したこと、被告竹内は被告金子の従業員が右作業を開始するに際し事前に、本件現場にある崩が切りたっている部分を指摘してその危険性を指摘し、それを取り除くため上方部分の危険個所の土砂をとり除いてくれるよう述べたこともあること、作業開始後は時折(四回位)本件土砂採取現場に姿を見せたことがあること、被告金子の従業員も作業開始前から本件現場付近の土砂崩壊の危険性を認識していたこと、昭和五〇年三月二七、二八日頃には被告金子の従業員である訴外金本利男は本件工事現場に姿を見せた被告大竹との間で、工事現場の外側に柵を設け、関係者以外の者の出入りを制限しないと危いと話しあっていたことはいずれも先に認定したとおりである(二の1の(六)・(七)参照)。右認定事実によると、被告竹内自身も本件現場の土砂崩壊の危険性があることは十分知悉していた或いは予見すべきであったものと推認するのが当然であり、このような場合(土砂採取工事を請負ったのが被告竹内産業(有)という法人であったとしても、その代表者代表取締役たる)被告竹内個人も土砂崩壊の危険防止のため十分な注意を尽くすべき義務があるものといわざるをえないところ、被告竹内は何の防止措置も講じず、専ら下請業者の被告金子に任せきりにしていたこと前記認定のとおりであるから、民法七〇九条による不法行為責任を免れ難いものと解するのが相当である。そして、被告竹内の責任も同被告を除くその余の被告らの前記責任と不真正連帯債務の関係にあるというべきである。

三  原告らの身分関係

請求原因2(原告らの身分関係)は、原告らと被告金子・同大竹・同鍋山間には争いがなく、原告らと被告竹内産業(有)・被告竹内との間では、前掲甲第七、第八号証によりこれを認めることができる。

四  損害

1  利昭関係

(一)  病院代     四万五二六〇円

《証拠省略》によれば、原告文雄・同ケイ子両名は利昭の本件事故死に伴なう死体検案書や死体処置料として宗像久能病院に対して四万五二六〇円を支出したことが認められる。

(二)  葬祭関係費用     五〇万円

《証拠省略》によれば、原告文雄・同ケイ子両名は死亡した利昭の葬祭関係費用として左記費目の出費を余儀なくされたことが認められる。

(1) 葬祭費    一六万三七五二円

(2) 仏壇購入費      六六万円

(3) 納骨堂加入費並びに永代供養費 一五万円

但し、右の(1)および(3)の費用は利昭の本件死亡により被告らに支払を命ずべき費用として社会通念上相当と認められるが、(2)については仏壇が耐久財として利昭の為にのみ利用されうる性格のものでない以上その全額を本件事故と相当因果関係ある損害と解するのは当を得たものとはいえない。諸般の事情を総合考慮し、葬祭関係費用として被告らに支払を命ずべき分は結局五〇万円をもって相当と認める。

(三)  逸失利益 一〇一八万一七〇七円

《証拠省略》によれば、利昭は昭和四三年四月二五日生れの男子であったことが認められるから、本件事故による死亡時(昭和五〇年三月三〇日)には六才であったことになる。現在殆どの男子が少くとも高等学校卒の学歴をもって職業に就くことは公知の事実であるところ、六七才までは稼働可能であり、その間の生活費は収入の半分、一八才までの養育費は月一万二〇〇〇円とみるのが相当であるから、昭和五〇年度の賃金センサスを基に利昭死亡時の逸失利益の現価を年五分の割合による中間利息をライプニッツ式で控除すると一〇一八万一七〇七円(円未満四捨五入、以下同じ。)となる。

二二六五一〇〇×〇・五×(一八・九八〇二-八・八六三二)-一四四〇〇〇×八・八六三二≒一〇一八一七〇七

従って原告文雄・同ケイ子の相続分は各五〇九万〇八五四円となる。

(四)  慰藉料       六〇〇万円

《証拠省略》によれば、利昭は原告文雄・同ケイ子の次男として出生し、数日後には小学校に入学するばかりになっていたことが認められるところ、右原告両名の利昭死亡による悲しみは深く、その精神的苦痛を慰藉するには各三〇〇万円小計六〇〇万円が相当である。

(五)  過失相殺

ところで前記したとおり、本件崩壊部分を中心とする本件現場が危険な個所であることは先に認定したとおりであり、その危険性は六才の子供においても十分認識可能であったと思われるから、利昭関係の損害を算定するにあたり、利昭が右認定可能にも拘らず博嗣と一緒にその危険個所で遊んだという点を原告文雄・同ケイ子の損害を算定するに際しても過失相殺の対象として考慮すべきが妥当であり、諸般の事情を考慮して損害の四割を減ずるのが相当である。そこで右(一)ないし(四)の合計一六七二万六九六七円の四割を減ずると一〇〇三万六一八〇円となるところ、原告文雄・同ケイ子の持分割合は平等であるから各五〇一万八〇九〇円となる。

(六)  弁護士費用      八〇万円

原告文雄・同ケイ子が利昭死亡による損害賠償請求のため同原告ら訴訟代理人弁護士両名に本件訴訟の追行を委託してきたことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、被告らに支払いを命ずべき弁護士費用の利昭死亡時の現価としては各四〇万円小計八〇万円が相当である。

(七)  原告文雄・同ケイ子の各損害 各五四一万八〇九〇円

右(五)、(六)を合計すると結局原告文雄・同ケイ子の各損害は各五四一万八〇九〇円ということになる。

2  博嗣関係

(一)  病院代     四万九二六〇円

《証拠省略》によれば、原告博文・同勝子両名は博嗣の本件事故死に伴なう死体検案書や死体処置料として宗像久能病院に対して四万九二六〇円を支出したことが認められる。

(二)  葬儀関係費用     五〇万円

《証拠省略》によれば、原告博文・同勝子両名は死亡した博嗣の葬儀関係費用として左記費目の出費を余儀なくされたことが認められる。

(1) 葬祭費    一三万〇八九〇円

(2) 仏壇購入費  二五万五〇〇〇円

(3) 納骨堂加入費並びに永代供養費 一五万円

但し、右のうち被告らに支払を命ずべき葬儀関係費用としては、先に利昭関係で論じたと同じ理由により五〇万円の限度をもって相当と思料する。

(三)  逸失利益 一一五二万〇五三七円

《証拠省略》によれば、博嗣は昭和四二年三月二三日生れの男子であったことが認められるから、本件事故による死亡時には八才であったことになる。従って、博嗣の場合の死亡時の逸失利益の現価を先に利昭のそれを算出したと同じ手法で計算すると一一五二万〇五三七円となる。

二二六五一〇〇×〇・五×(一八・八七五七-七・七二一七)-一四四〇×七・七二一七≒一一五二〇五三七

従って、原告博文・同勝子の相続分は各五七六万〇二六九円となる。

(四)  慰藉料       六〇〇万円

《証拠省略》によれば、博嗣は原告博文・同勝子の長男として出生し、本件事故当時小学校二年生であったことが認められるところ、右原告両名の博嗣死亡による悲しみは深く、その精神的苦痛を慰藉するには各三〇〇万円が相当である。

(五)  過失相殺

博嗣の損害算定についても、先に利昭について論じたと同じ理由により、同じ割合で過失相殺するのが相当である。そこで右(一)ないし(四)の合計一八〇六万九七九七円の四割を減ずると一〇八四万一八七八円となるところ、原告博文・同勝子の持分割合は平等であるから各五四二万〇九三九円となる。

(六)  弁護士費用      八〇万円

原告博文・同勝子の場合の弁護士費用の博嗣死亡時の現価について被告らに支払を命ずべき分は、先に原告文雄・同ケイ子のところで論じたと同じ理由により各四〇万円が相当である。

(七)  原告博文・同勝子の各損害 各五八二万〇九三九円

右(五)・(六)から算定すると、原告博文・同勝子の各損害合計は各五八二万〇九三九円ということになる。

五  結論

以上の次第であるから原告らの請求のうち、

1  被告竹内に対する各原告の一部請求として各三七五万円およびこれに対する不法行為発生日の昭和五〇年三月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求はすべて理由があるから認容するが、

2  その余の被告らに対する請求は、原告文雄・同ケイ子において各五四一万八〇九〇円、原告博文・同勝子において各五八二万〇九三九円およびこれらに対する前同様の昭和五〇年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容するが、その余の請求はいずれも失当として棄却を免れない。

3  よって、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川井重男 裁判官 簑田孝行 裁判官長谷川憲一は新任判事補研鑽で東京地方裁判所に出張中のため署名押印することができない。裁判長裁判官 川井重男)

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